« 多摩美オールナイトロックフェス・3 | トップページ | 多摩美オールナイトロックフェス・5 »

2006年3月 2日 (木)

多摩美オールナイトロックフェス・4

前回に続いて、私が委員長を勤めた82年の出来事をもうひとつ書いておこうと思う。この年のロックフェスの最初に出演したバンドは「ダディ竹千代と東京おとぼけキャッツ」。読んで名前のごとくコミックバンドである。どんなバンドだったかというと、最近のものを例にすれば、「モダンチョキチョキズ」をもっと渋くソウルフルにした感じで、当時そこそこ名前も知られていた。それが学園祭も間近に迫った頃、あることで委員会に問い合わせをしてきた。その問い合わせというのは「火を吹いてもよいか?」ということだった。彼らのステージはかなりハチャメチャで、なかでも呼びものだったのがベーシストがキッスのジーン・シモンズのように口にアルコールを含み、火を吹き上げるというパフォーマンスだった。私はとくに考えることもなくOKを出すつもりだったが、軽音の先輩の一人がちょっと過剰に反応して「やめさせた方がいい」と言い出した。理由は火災の危険と、もうひとつは警備(体育会系)との緊張関係だった。学園祭の間、体育会系の各部は数名づつ部員を出して警備にあたらせるのが慣例になっていて、それは学園祭の運営には大きな役割を果たし、特にロックフェスは警備への依存の高いイベントだった。彼らを刺激するようなことは避けた方がいいとその先輩は言い、結局押し切られるような形で「火吹き」はやめてもらうことになった。私としては自分が責任を負うロックフェスから面白そうなことがひとつ減るのは心外であったし、聞けば「おとぼけキャッツ」は多摩美を最後に解散するということだった。それならなおさらやってもらうべきだったが、すでに遅く、事務所に連絡した後だった。また、私は委員長としてなにかと多忙で、そればかり考えているわけにもいかずそのままになり、いつしか忘れてしまった。そして、ロックフェス当日、例のシーナの一件で緊張の走る開場数時間前、私は会場の最終確認をしていた。すると、そこにむさい姿の一団がやってきた。そのナリから彼らがミュージシャンでありステージの下見に来たことはすぐにわかったので、私は彼らのところへ行き、「責任者です。今日はよろしくお願いします」と挨拶をした。そして中の一番目立つ人物が「ダディ竹千代です。こちらこそ」と答えたとき、しばらく忘れていた「火吹き」の一件を思い出した。私がそのことをまず詫びようと思ったが、その間もなく、その中の一人の男が申し訳なさそうに言った。「ベースのものですが、火は、ダメですかね?」まだ諦めきれないのだろう、その言葉を聞いて、私は返事に困った。そして、ベース氏は察して「ダメですよね」と、諦め笑いを顔に浮かべた。その時、私は思った。責任者たる者、相手にはっきり伝えるべきは伝えなくてはならないと。私はベース氏に向かってキッパリと言った。「残念ですが、火を吹くのはやめてください! ・・・・・、バケツ、用意しときますから」。一同の動きが止まった。私は繰り返して、「ですから、火は絶対に吹かないで下さい。バケツ、用意しときますから」。一瞬おいて、ベース氏の顔に笑顔が浮かんだ。「わかりました。火は吹きません。ですから、バケツ用意しておいてください」「ご理解ありがとうございます。バケツは用意しておきますので、くれぐれも火の方はおやめください」「もちろんです。バケツさえ用意してくだされば、火は絶対吹きません」その後、メンバー全員笑いながら控え室に戻っていった。そして、夜九時、彼らのステージでロックフェスの幕があがった。客をのせるのは得意と見えて、会場は一気に盛り上がった。話に聞いたステージングはめちゃくちゃでステージ上で焼きソバを焼き始め、できたらそれを会場にぶちまけた。私はその間にスタッフに頼んで、でかいバケツに3杯水を入れて持ってこさせ、そしてついにその時が来た。ベース氏はなにやら口にふくむと、おもむろに手に松明を持ち顔の前にかかげ、それにむかって一気に吹きかけた。次の一瞬、大きな火柱が立つと会場がパッと明るくなり、客たちは大喜びでそれに反応した。間違いなくこの夜の流れをつかんだ一瞬だった。そのあとも特に問題なく、彼らは最後のライブを終え、ステージを降りていった。   さて、あれから20年の時が過ぎ、今思い返すに、万が一あの時、なにか事故が起きていたとしたら、自分はどう責任を取るつもりだったのだろうか。カッコつけるわけではないが、責任を取る覚悟があったのは偽らざるところだった。しかし、具体的にどう取るかについては正直、なにも考えていなかった。若者らしいといえば若者らしいが、バカ者といえばバカ者だった。しかし、そうであれどうであれ、私は今でもあの時の自分を嫌いにはなれない。

« 多摩美オールナイトロックフェス・3 | トップページ | 多摩美オールナイトロックフェス・5 »

アサクラヨースケ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 多摩美オールナイトロックフェス・3 | トップページ | 多摩美オールナイトロックフェス・5 »