小説・レインボーエキスプレス 2章「チープスリル・パリス」-5
翌日、陽がだいぶ高くなってから起きた二人は、その一日、行動をともにした。
フランスでは英語が通じにくいといってもそれは町中のことで、銀行や公共機関では話は別だった。充分な英語力と旅でいくらか身につけた経験でヨースケはカズの両替や生活に必要な日用雑貨の買い物など手伝い、その替わりに一日分の食事と、もう一泊の宿を提供してもらうことになった。旅行案内所にも行って、街のどこにカズの行きたい場所があるのかも調べた。ところが、カズはすでにパリにもフランスにも興味を失い、次の日、ヨースケを見送った足でアムステルダムに向かうと言い出した。
夜、宿に戻るとヨースケは買ってきたノートに旅で役立ちそうな英単語や言い回しをまとめ、オランダに行くための移動方法などわかるだけのことを書いて渡した。
そして翌朝、二人は旅支度を整えて、約束の時間の少し前、ノートルダム寺院の前に立った。
「お世話になったのに、見送りなんてすみませんね」
「かまへん、かまへん。そのマジックバスとやらも見てみたいしな」
バスを待つ間、ヨースケはもう一度オランダに行く段取りをカズに言って聞かせた。
「大丈夫やって、カギじゃあるまいし」
「ほんとですか? 心配だなぁ。それと、あんまりアムステルダムでハメはずさないでくださいね。どんなものにも限度ってものはあるんですから」
「見てくれのわりに、堅いこと言うなぁ。心配せんでもええで」
「お願いしますね。それと、いろいろありがとうございました」
「いや、こっちこそ。けっこうオモロかったで。いろんなこと教えてもらったし、助かった」
そこにほぼ時間どうり、レオンのバスがやって来た。
「ホンマに、幼稚園バスやなぁ」
「そうなんです。ショックなんです」
そしてバスが二人の前にゆっくりと止まると、同時にスーが窓から身を乗り出して、笑顔を輝かせながら可愛らしく手を振った。
「ヨースケ! パリはどうだった?」
「うん。あんまり稼げなかったけど、面白かった。そっちは?」
「すごくいいところで、楽しかったわよ。ヨースケも一緒に来れば良かったのに。ねぇ、その人お友達?」
「そう。パリで知り合った日本の人。だけど、この人はこれからアムステルダムに・・・」と、言いかけたとたん、カズは突然、ドン! と、片手でヨースケを突き飛ばした。
「なにするんですか!」
ヨースケが機嫌を損ねて言うと、しかし、カズは涼しい顔をしながら答えた。
「なにが、アムステルダムやねん?」
「えっ?」
「誰がアムステルダム行くゆうてん?」
「・・・・・・・・・・」
「なに、黙っとんねん?」
「どういうことですか?」
「英語で、『一緒に行く』って、なんてゆうねん?」
「はぁ?」
「鈍いやっちゃなぁ。英語で『一緒に行く』って、なんてゆうたらええか、教えてくれって聞いてんねん!」
「・・・、GO WIHT YOU」
「なんや。それでええんか。簡単やな」
そしてカズはバスの方を向くと、満面の笑みをその顔に浮かべ叫んだ。
「ごぉー、ういず、ゆう!」
「えっ、ほんと? 素敵じゃない! レオン! 一人お客さん増えたわよ。ヨースケのお友達!」
スーの言葉を聞いてアンも窓から顔をのぞかせて喜び、レオンは運転席から、大きな声で言った。
「スゲーじゃねぇか。これで総勢五人だ。旅らしくなってきた。早くそいつを紹介してくれ!」
ヨースケは腑に落ちないまま、カズのニヤけた横顔を見ていたが、その魂胆が絶世の美少女スーにあることはすぐに読めた。
「おっ! なにしてんねん。はよ乗るで!」
カズはヨースケを置いて、さっさと一人先にバスに乗り込んだ。そして、いきなり自己紹介を始め、
「まい、ねぇーむ、いず、カズ。アハハハハ・・・」と、笑いながら握手をして回り、レオンはそれに答えて言った。
「レインボー・エキスプレスにようこそ。すべてノー・プロブレムだ」
「ヨースケ! やっぱりマジックバスやなぁ。『ノー・プログラム』ゆうとるで。『予定なし』ちゅうこっちゃ! アハハハハ・・・」
カズのノリの良さは、アンもスーも気に入ったようで、「ハロー、よろしくね」と、嬉しそうに迎えた。
ヨースケは一人納得いかない気持ちを残しながらも、「まぁ、いいか」と気を取り直し、荷物を持ち上げるとバスに乗り込んだ。
そして乗客を一人増やしたレインボー・エキスプレスは、パリを後にフランスを南に向かって走り始めた。
(2章「チープスリル・パリス」終わり。3章「フラッシュバック」に続く)
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